日本はモグラ大国。私たちが立っている地面の下にモグラたちがたくさん住んでいるなんて、なんだかすごいことだと思いませんか?
モグラを正しく分類すると「動物界 –脊索動物門 –脊椎動物亜門 –哺乳網 -トガリネズミ目(食虫類) -モグラ科」となります。
モグラっていつから地球にいるの?
生きものが本格的に陸上に進出し始めたシルル紀のイメージ
地球が宇宙に誕生したのは、今から約46億年前。海の中で最初の生命が生まれたのは約38億年前のことです。最初の生命は単細胞で、23億年という年月をかけながら酸素のない水中で多様な進化を続けました。その間、紫外線が強烈に降り注ぐ厳しい環境であった地球も酸素を排出する藍藻類のおかげで酸素にあふれた空気が増え、オゾン層ができることにより、新たな生命に適した環境が整い、水中では新しい生命体があふれ始めました。この生存競争の負け組は徐々に水辺へと押し出され、ついには上陸しないと生き残れなくなり、生命の地上への進出が始まったのです。そして脊椎動物は4億年ほど前に誕生しました。これが哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類などすべての生物の祖先であると考えられています。1億1000万年前ころ(白亜紀前期)にはモグラなどの食虫類が地球に誕生し、進化を繰り返し、恐竜が絶滅した直後に人間の祖先である霊長類が6500万年前ころ(暁新世)には誕生したと考えられています。つまり、モグラなどは人間の祖先にあたり、モグラは人間に比べてはるかに原始的な生き物であると言うことができるのです。
この進化については、今も世界各地で研究が進められており、これまで考えられてきた説が大幅に変更となる可能性もあります。
モグラはどうして地下にいるの?
大昔のモグラがすんでいたのは、地上。しかし、地上には大型の恐竜をはじめ、様々な生き物が食べ物を求めて生きていました。大型の動物たちが絶滅と進化を繰り返す中、モグラをはじめとするある種の小型の動物は安定した地上の生活の場から追い払われ、だんだんと地下に生活の場を移さざるを得なくなり、何とか生き残ってきたのです。いったん地中に棲み着くことに成功すると、地下にはモグラの好物のミミズや幼虫がいっぱい。空からの敵はこないし、温度や湿度はあまり変わらないし、暗いことを除けばとても良い場所だったのです。そして地下の生活にふさわしいものが生き残り、だんだんと効率の良い体に進化してきたのです。
しかしながら地中はいろいろな制限があります。進化は生存競争に有利な大形の方向へ向かいますが、体が大きくなると大きなトンネルを掘らねばならず莫大なエネルギーが必要になり、限界があるのです。獲物はミミズなどの虫ですから、大きさがおよそ30cm以下のものしか生きられないのです。地下に巣穴をもつプレーリードッグは30cm以上ありますが、食べ物は地表の草ですから問題はないのです。
日本はなぜ、モグラ大国なの?
日本列島が出来上がるまでに大陸と数万年おきに何度も地続きになり、その都度、大陸で進化していたモグラが次々と渡来しました。古い時代には古いモグラが、新しい時代には進化したモグラがやってきたのです。森林が多く、雨季のある日本は、豊かな土壌に恵まれた国。低地から山岳地帯までさまざまな高さの土地もあります。モグラの好物はミミズや幼虫で、ある程度の湿度があって、比較的柔らかい土の中。大陸では進化したモグラが現れると、古い種類は絶滅していったのですが、年代を違えて日本列島に入ってきたモグラは古いものは山岳地帯に、進化した新しいモグラは平地の棲みやすい場所に棲み着くことができたので、進化の程度が違ったいろいろな種類のモグラが現在まで生き延びているのです。
日本にいるモグラのことを教えて
日本にいるモグラは4属8種。つまり、8種類のモグラがいて、進化の程度から分けると、原始的なヒミズ亜科(Scalopinae)と進化したモグラ亜科(Talpinae)とに分けられます。
もっとも原始的なヒメヒミズ(Dymecodon pilirostris)は、150万年以上前の更新世中期にはすでに日本列島に渡来していたと考えられています。体が小さく、尾が長く、前足の手のひらが小さく、穴を掘って暮らすというより地表の落ち葉の間や溶岩の隙間で暮らすのが得意なモグラです。本州・四国・九州の比較的高い山地に分布しています。かつては亜高山棲と考えられていた時期もあります。
次に原始的なのはヒミズ(Urotrichus talpoides)で、今から70万年以上前に渡来したようです。ヒメヒミズに比べると体が大きく、尾が少し短く、前足の手のひらがやや大きく、落ち葉層の下や軟らかな土壌地帯で穴を掘って暮らしています。本州・四国・九州の平地から低山にふつうに分布しています。
不思議なことにヒミズ亜科のものは、このあと日本列島には渡来していません。この仲間はアジアと北アメリカをつないでいたベーリング海峡にあった陸橋を通過して北アメリカへ渡り、その地で大発展して日本のモグラにそっくりなトウブモグラ(Scalopus aquaticus)やセイブモグラ(Scapanus townsendi)が誕生しました。
日本列島には少し時代をおいて、モグラ亜科のものが入ってきました。体は大形で手のひらはウチワ型で穴掘りに適しています。モグラ亜科で一番原始的なのはミズラモグラ(Euroscaptor mizura)です。これは鼻づらの毛の生え方が平安時代あたりの髪型「角髪」に似ているということで名付けられたもので、体はヒミズより少し大きく、尾は短く、手のひらはウチワ型になり穴掘りに適応しています。ミズラモグラはヨーロッパでは進化を繰り返してヨーロッパモグラ(Talpa europaea)を生み出したのですが、日本列島に入ったものはひっそりとそのままの姿で低山の森で暮らし続けてきました。なぜならアジア大陸東部に現れた真のモグラが日本列島に入ってきて、平地から駆逐され、進化できなかったのでしょう。一説には新潟県の平野部にわずかに分布するエチゴモグラ(Mogera etigo)や佐渡に分布するサドモグラ(Mogera tokudae)はミズラモグラが進化したものとされます。現在本州、四国、九州の平野部には45万年ほど前に渡来したと思われるアズマモグラ(Mogera imaizumii)と、大陸でさらに進化して大形化して2万年以上前に渡来したコウベモグラ(Mogera wogura)が棲息しています。
あと1種、沖縄県の尖閣諸島の魚釣島からモグラの記録があります。調査隊が上陸したとき地表で死んでいるのが見つかったもので、このモグラはセンカクモグラ(Nesoscaptor uchidai) と命名されましたが、台湾のタイワンモグラ(Mogera insularis)によく似ており、現在では(Mogera uchidai)と修正されています。おそらく台湾と陸続きだった時に島に入ったものでしょう。
他のアジア大陸にもいるコウベモグラを除き、7種のモグラは日本固有種です。
センカクモグラはごく近い将来絶滅の恐れがある絶滅危惧種IA類、エチゴモグラもIAほどではないものの、近い将来に絶滅の危険性が高い絶滅危惧種IB類に指定されています。
モグラの生活のことを教えて
都市部の公園に現れたモグラ塚
モグラ亜科のモグラが生活しているのは地下。掘りやすく、大好物のミミズ、コガネムシやカブトムシの幼虫、ケラ、クモ、ムカデなどが多くいる細かい土壌で水分を多く含んだ土地に住んでいます。こうした条件があればモグラは生活できるので、都市部の公園やゴルフ場などの地下にもモグラは住んでいるのです。
モグラは先祖から受け継いできた地下のトンネルに手を加えたり、直したりしながら生活の場としています。トンネルを掘るために出た土は地上に出します。これが「モグラ塚」です。このトンネルには一日に何度も行き来する本道と食べ物をとるために掘り進んだ支道、食物を蓄えておく場所、トイレ、寝部屋、休憩をする場所などがあります。モグラの唾液には麻酔成分が含まれているとされ、ミミズなどを仮死状態のまま保存できるといわれます。モグラは縄張り意識が強く、繁殖期以外はこのトンネルに一匹で暮らしています。
一方、モグラ亜科に比べ体の小さいヒミズ類は、ミミズなどの他、果実や植物も食べるため、それほど高くない山の森林に住み、落ち葉が何層にも積み重なった場所の地上に浅い溝を掘って生活しています。
モグラは運動量が多く、代謝も高いため食欲が旺盛で、食物をためて自分の体重の3分の1から半分くらいの量を食べます。冬も冬眠をすることなく、特にモグラ亜科のモグラは寒さや乾燥のために地中深くに潜ったミミズを求めて活動を続けます。ヒミズ亜科のものも落ち葉の下やその下の土壌地帯に浅いトンネルを掘って活動します。このトンネルはアカネズミなどと共同で使うようです。
モグラの寿命は5年ほど。1年に1回のみ出産し、一度に2〜7匹の子を産みます。
モグラの体はどうなっているの?
モグラの前肢
モグラは種類によって体長が異なりますが、だいたい10センチほどの大きさです。鼻が尖り、ずんぐりむっくりとしていますが筋肉質で流線型をしています。他の哺乳類と異なり、前肢が地面に垂直についているのではなく、体の脇に水平についており、土を掘りやすいようになっています。手は大きくて丸く、先に鋭く長くて頑丈な爪が5本はえています。親指の下側には三日月型の骨がついていて、さらに手の面積が広がるので土が掘りやすくなっているのも特徴です。
モグラ亜科のモグラでは、毛はびっしりと体に垂直に生えていて、トンネルの中を行き来したり、ミミズをくわえながらバックをしても邪魔にならないようになっています。とても手触りが良いので、高級な毛皮として人間が珍重してきたと言う歴史もあるほどです。ヒミズ類は毛が短く、モグラ亜科のモグラほどには手触りはよくないのですが、やはり下毛が生えていて寒さに耐えられるようになっています。
モグラ類は地下、または半地下で生活しており、目は退化していて薄い皮膚の膜に覆われています。光を感じることはでき、トンネルから顔を出して外が暗いのか明るいのかは識別しています。暗いとしばしば地表に現れて移動したり、コオロギなどの昆虫を捕らえたりします。一方、毛の生えていない鼻は優れた感覚器官で、土の中を移動するミミズなどのわずかな動きを感知することができるのです。この器官は「アイマー器官」と呼ばれています。
モグラは嗅覚も非常に鋭く、土の奥にいるミミズの匂いを感知できるのではないかと、現在それを確かめるための実験などが行われています。