「このまま地球温暖化などによる環境の悪化が続けば、2100年までにはホッキョクグマは絶滅する恐れがある」というニュースを聞いたことがあるのではないでしょうか。
一方、日本ではヒグマに襲われて、大けがをしたというニュースを耳にします。
キャラクターとしてはとても身近なのに、世界にはどんなクマがいるのか、クマはどのような能力をもつのか、そしてクマは本当に凶暴なのか、なかなかわからないですよね。
クマを生物分類学的に表すと「哺乳類 - 食肉目(ネコ目) - イヌ亜目 - クマ下目 - クマ上科 ― クマ科」となります。クマ下目にはイタチ上科、クマ上科、そしてなんとアシカやセイウチ、アザラシなどの海獣(海生哺乳類)のグループである鰭脚下目もあります。ジャイアントパンダやレッサーパンダなどは、クマ下目には入るものの、クマ上科ではなく、イタチ上科に入ります(ただ、この分類には色々な説があります)。
さあ、クマ科の動物たちのことを調べてみましょう。
クマ科の動物はいつから地球にいるの?
木の上から地面へ降りた祖先たち
最近、ニューヨークの研究チームがスーパーコンピューターで膨大な化石や分子の情報を解析した結果、すべての胎盤(母体内でおなかの中の赤ん坊に栄養をあげるためにできる器官)のある哺乳類「真獣類」の祖先は、今から6,600万年前ごろに現れた全哺乳類の祖先プロトゥンギュラトゥム・ドナエ(Protungulatum donnae)というトガリネズミのような姿かたちをもち、樹上で生活をしていた動物であるという説が発表されたこと、「ネズミ」の中の「まずはネズミの歴史から」でお話しましたね。この仲間から、約6,500万年~4,800万年前、ヨーロッパから北アメリカに棲息し、樹上で狩りをしていたミアキス(Miacis/「動物の母」という意味)という食肉類の祖先が現れたのです。
それらの小さな動物は木の上で主にもっと小ちいさな草食動物を捕食していましたが、個体数が増え、生存競争がはげしくなり、木の上から地上へ、そして森から草原へ出ていくものが現れてきました。それがイヌ科の祖先となり、森に残ったものがネコ科の祖先となっていったのです。草原に出て行ったものの、そこに適応することができなかった動物の中には森にもどるものもありました。これは約2,000万年前の中央ヨーロッパ(現在のドイツ・オーストリア・ポーランド・チェコ・スロヴァキア・ハンガリーあたり)での出来事で、それがクマ科の祖先やイタチ科の祖先となり、海に行ったものはアシカやアザラシなどの鰭脚類に進化していったと考えられています。
最初、クマは小さかった⁉︎
初期の頃のクマは体が小さく、樹上を主な住処としていました。体こそ小さいものの、奥歯は現在のクマのように、植物をもすりつぶすことのできる臼のような形(臼歯)に進化をしていたようです。
巨大グマの誕生
ショートフェイスベアとサーベルタイガー(イメージ)
1,400万年~80万年前の南北アメリカ大陸には、体重が1tを越え、立ち上がると4m前後にもなる巨大で非常に凶暴なショートフェイスベア(Arctodus)がいたことが各地から出土する化石から分かっています。(現在、日本に棲息するヒグマのオスの体長は2〜2.8m、体重は250〜500kg。ヒグマと比べても、ショートフェイスベアがどれほど大きかったかわかりますよね。)このクマは名前の通り、今のクマよりも鼻が短く、巨大な牙と臼歯を持っており、長い四肢でかなりのスピードで走ることができたようです。草原にはラクダの祖先種やバイソン、ウマなどの大きなの草食動物が多く棲息していて、これらをその恵まれた体格と身体能力で捕食をしていたと思われます。
南アメリカのショートフェイスベアは、その後、移入してきたハイイログマや人類との生存競争のすえ、大形のものは姿を消し、それほど大きくないものが生き残ってきました。ところが、北米のショートフェイスベアの方は、その地域にマンモスやオオナマケモノなど氷河期の動物が豊富にいたせいなのか、ますます大形になっていったようです。
絶滅したホラアナグマ
ホラアナグマグマ(ルーマニアの切手)
ヨーロッパや中東では約30万年前にホラアナグマ(Ursus spelaeus)という現在のヒグマに近い外見をもつクマが現れました。雑食性で冬眠をすることにより氷河期を生き延びたものの、食物と生息場所を求める人間との競争に負けるなどの理由により、24,000年前には絶滅をしたと考えられています。名前の「ホラアナ(洞窟)」は、化石がたくさん発掘されたのが洞窟だったためにつけられたのであって、棲息場所が洞窟だったわけではありません。念のため。
クマの進化はすぐれた適応力のおかげ
こうして絶滅するクマもいる一方、530万年~10万年前にはユーラシア大陸から北アフリカで雑食性を身につけたエトルリアグマ(Ursus etruscus)と呼ばれる小形のクマから高い環境適応能力をもったヒグマへ進化をしていきました。
現在、絶滅が心配なホッキョクグマですが、最近ではヒグマの亜種ハイイログマとの交雑種(雑種)なども見つかっています。クマは現在でもその強い生命力、そして環境への適応力によって進化しているとも言うことができるのです。
クマ科にはどんなクマがいるの?
世界には7種類 ー メガネグマ、マレーグマ、ナマケグマ、ツキノワグマ、ホッキョクグマ、ヒグマ ー のクマ科が動物が棲息しています。(ジャイアントパンダをクマ科に入れている事典などもありますが、僕はクマ科には入れない。その理由は、「教えて、今泉先生!」の「ジャイアントパダはクマじゃないの?」を読んでください。)
【クマ科の動物】
[ ]内の表示は、棲息地/成獣の平均体重(kg)
メガネグマ亜科(Tremarctinae)
メガネグマ属(Tremarctos)
○メガネグマ (T. ornatus)[南米やペルーの熱帯ジャングル/150㎏]
メガネグマ
クマ亜科 (Ursinae)
マレーグマ属(Helarctos)
○マレーグマ (H. malayanus)[東南アジア/60㎏]
マレーグマ
ナマケグマ属 (Melursus)
○ナマケグマ (M. ursinus)[インド、ネパール、バングラデシュ、ブータン、スリランカ/100㎏]
ナマケグマ
クマ属 (Ursus)
○ツキノワグマ(U. thibetanus)[東アジアから東南アジア、日本、中国/50~120㎏]
・ニホンツキノワグマ(U. t. japonicus)
・ヒマラヤツキノワグマ(U. t. laniger)
・パキスタンツキノワグマ (U. t. gedrosianus)
・タイワンツキノワグマ (U. t. formosanus)
・ウスリーツキノワグマ (U. t. ussuricus)
・シンセンツキノワグマ (U. t. mupinensis)
・チベットツキノワグマ(U. t. thibetanus)
○ヒグマ (U. arctos)[ヨーロッパからアジア、北アメリカ/オス500㎏、メス300㎏]
・エゾヒグマ (U. a. yesoensis)
・ハイイログマ (別名:グリズリー/U. a. horribilis)
・ヨーロッパヒグマ(U. a. arctos)
・チベットヒグマ(別名:ウマグマ/U. a. pruinosus)
・コディアックヒグマ ( U. a. middendorfii)
・ヒマラヤヒグマ (U. a. isabellinus)
・アカグマ (U. a. collaris)
・シリアグマ (U. a. syriacus)ほか
○ホッキョクグマ (U. maritimus)[北極大陸、北アメリカ大陸やユーラシア大陸北部/オス600㎏、メス200~300㎏]
○アメリカグマ(別名:アメリカクロクマ/ U. americanus)[アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ/400㎏]
・クロアメリカグマ、アメリカクロクマ (U. a. americanus)
・アオアメリカグマ (U. a. emmonsii)
・シロアメリカグマ、アメリカシロクマ (U. a. kermodei)
・オリンプスクロクマ(U. a. altifrontalis)
・クイーンシャーロットクロクマ(U. a. carlottae)
・クリイロアメリカグマ(U. a. cinnamomum)
・フロリダアメリカグマ(U. a. floridanus)
・ニューファンドランドクロクマ(U. a. hamiltoni)
・ルイジアナアメリカグマ (U. a. luteolus) ほか
アメリカグマ(アメリカクロクマ)
日本にはどんなクマ科の動物がいるの?
日本の国土の67%が森林です。この豊かな森林には、ヒグマとツキノワグマの2種が棲息しています。
【ヒグマ】
世界のヒグマ
世界でもっとも棲息地域が広いクマは、ヒグマ。また、ホッキョクグマと並んでクマで最大の体格をもつクマもヒグマです。ヒグマの棲息地は、ヨーロッパからアジア、そして北アメリカ大陸というように北半球の広い地域におよびます。また、さまざまな自然環境で広範囲に棲息をしているため、大きさなどの形態が大きく異なるのも特徴です。最大はアメリカのアラスカ州コディアック島に棲息するコディアックヒグマで、オスは体重700㎏、体長3mを越えることもあります。
コディアックヒグマ
最小はチベットの山奥に棲息するチベットヒグマで、体重は100〜120kg、体長1.5〜1.6mほど。馬のように走ることから、ウマグマとも呼ばれています。雪男のイェティはこのチベットヒグマではないかという説もあるようです。
チベットヒグマ(ウマグマ)
祖先は完全な肉食動物であったクマも、進化するにつれ、環境によって肉食だけでなく、木の実などの植物性のものをすりつぶすことのできる歯を持つようになり、雑食性へとなっていったのです。中でも ヒグマの適応能力はとても優れているため、世界でもっとも広く棲息することができているのです。
日本のヒグマ「エゾヒグマ」
日本のヒグマは北海道のみに棲息し、エゾヒグマと呼ばれています。その遺伝子を研究したところ、エゾヒグマは氷河期にアジア大陸から本州を通って北海道に渡った種類、樺太を通ってアジアから北海道に入った種類、もう少し後から樺太から渡ってきたヨーロッパ系のクマに近い種類など3系統のクマがいることがわかっています。本州や四国、九州でもヒグマの化石が出土していることから、北海道より南にもかつてはヒグマが棲息していたと考えられます。 やがて氷河期の終わりとともに地球の気温が上がり、樹木がどんどん成長し、森林もどんどん広がっていきました。冷涼地生まれで草原を棲息地としていたヒグマは、広大な草原の残る北の地方へ移動せざるを得なかったのだと考えられています。また、植生が変化したことにより、本州のヒグマは消滅したようです。
現在、北海道の約55%の地域にエゾヒグマが棲息しています。エゾヒグマは日本で最大の陸棲生物で、オスは体重が150~400㎏、体長2m前後ほど、メスは体重が100~200㎏、体長1.5m前後にもなります。ツキノワグマに比べてやや肉食性が強く、サケやマスが産卵のためにのぼってくる川が近くにあれば、それらの魚を捕えるほか、シカ、ウサギ、ネズミ、昆虫 ー 中でもに栄養価のある幼虫や攻撃性の少ないアリ ー そして屍肉なども捕食します。また、栄養豊かなコクワやヤマブドウ、ドングリなどの木の実やフキやセリなどの山菜、セリ科の草なども多く食べています。
エゾヒグマ
北海道の先住民族であるアイヌの人たちは、ヒグマを山の神(アイヌ語で「キムンカムイ」)として崇め、狩猟によって手にした肉や毛皮を神からの授かり物として感謝しながら利用してきた文化があります。ところが、農業を行う人たちの数が減り、また自然環境の 変化により、人里におりてきて人間に被害を与えることも増えてきています。現在ではエゾヒグマの駆除と保護の両方の計画が北海道各地で進められています。
エゾヒグマ(北海道 知床半島)
【ツキノワグマ】
温暖な地域のクマ
ツキノワグマはアジアクロクマとかヒマラヤグマとも呼ばれるクマで、今から200~150万年前、アジア大陸の中でも温暖な地域をルーツとしています。現在では、イラン、アフガニスタンの西アジアから東南アジア、そして中国や台湾、韓国などの東アジア、そしてロシア東部にまで棲息しています。
ヒマラヤツキノワグマ(インド〜パキスタンに棲息)
ツキノワグマの「ツキ」は胸にある白い月型の模様のことで、中にはこの模様のない真っ黒なクマもいます。
ニホンツキノワグマ
日本にいるツキノワグマはニホンツキノワグマと呼ばれるツキノワグマの亜種(日本固有亜種)で、本州と四国の33都府県に棲息しています。このクマは氷河期に日本と陸続きとなったアジア大陸から渡ってきたようで、氷河期が終わって日本がアジア大陸から切り離されたあとも、古い特性を保ってきたのです。ニホンツキノワグマはかつては九州にも棲息をしていて、今では絶滅したとの報告もありますが、まだ生存しているという説もあり、実際はまだはっきりとしていません。九州に現在クマが棲息していないのであれば、九州の森林にはドングリなどを実らせることのない常緑樹や針葉樹が多いことなどを理由としてあげることができます。(ドングリは、落葉広葉樹のブナ科の樹木の実です。)
ニホンツキノワグマ
ニホンツキノワグマはヒグマよりも小さく、オスは体長1.5m前後、体重120㎏ほど。メスは体長1.3m、体重90㎏ほどです。大陸のツキノワグマよりも小さく、森林を住処としているために、木登りが得意。手のひらの後ろ半分に毛がないのは木に登ることへの適応とも考えられます。(ヒグマの場合、子どもの時以外はほとんど木に登らず、穴を掘る性質があります。ヒグマの地面につく手のひらの後ろ半分にだけ毛が生えているのは歩行ヘの適応と考えられます)。
食性はヒグマに似ているものの、食物の90%は植物性のものです。秋にはブナ・コナラ・ミズナラなどのドングリを求めて、山を移動しています。
ツキノワグマ(東京・奥多摩)
クマと人間の共存について
ヒグマ同様、自然環境の変化によってドングリ類が不作になったり、キャンプなどで山を訪れた人間が興味半分で人間の食べ物をクマに与えてしまうことなどにより、人里近くに出没するクマが増えてきています。そのために事故もたびたび起きています。ツキノワグマが棲む森は広葉樹が多く、他の動物にとっても大切な生活圏です。大切な生態系を守るため、そして人間とクマが接触する不幸な事故を防ぐためにも、森を守り、人間とクマがきちんと棲み分けのできる環境を整える必要があるのです。
クマは全部、冬眠をするの?
冬眠に近づくアメリカクロクマ
クマは気温が下がり食料が手にはいりにくくなる冬を乗り切るため、冬眠をします。晩秋に食べ物が急激に足りなくなると、1日に眠る時間がだんだんと長くなり、穴にこもるようになると、眠り続けます。35℃前後まで体温が下がり、エネルギー消費が減ります。しかし眠りは深くなく、足音などが聞こえれば目を覚まします。これを普通の冬眠と区別して、「冬ごもり」と言うことがあります。
ただ、「冬眠」と「冬ごもり」や「冬越し(越冬)」という言葉にはっきりとした違いはありません。英語ではすべて「hibernation(ハイバネーション)」と呼びます。
このようにクマは冬、冬眠をするイメージがありますが、全部のクマが冬眠するかと言えば、答えはノー(No)です。西日本の冬でもわりと暖かく食べ物がある地域では冬眠しないクマも見られます。
動物の冬眠の仕組み
冬、池の底の方に魚が集まってじっとしていますよね。このような魚類やカエル、イモリといった両生類、ヘビやトカゲ、カメなどの爬虫類、そして昆虫や貝などは外の気温によって体温が変化する変温動物と言い、気温の下がる冬には不活発で仮死状態となり、簡単には目を覚ましません。
冬眠するカタツムリ
それでは、外の気温が変化しても体温を一定に保つことのできる動物(こうした動物を恒温動物と言います)の哺乳類はどうでしょうか。地球上には現在わかっているだけで約6,000種類の哺乳動物がいますが、その中で冬眠するのは約200種類ほどです。ネズミやコウモリのような小形の哺乳類の冬眠の場合、体温がだんだんと下がるのにつれて1日の睡眠時間が次第に長くなり、やがて深い眠りにつきます。低体温のまま眠る期間といつも通りの体温にもどり、秋の間に蓄えた食料を食べたり(シマリス)、あたりの虫などを食べて水を飲んだり(コウモリ)して、排泄を行う期間を交互に繰り返しています。
冬眠するトウブシマリス
大形の哺乳動物で冬眠をするのはクマだけ⁉︎
その通り、大形の哺乳類で冬眠をするのはクマだけです。クマの場合、冬眠の間、目を覚ますことなく一冬を過ごします。クマは特に体が大きいので、外の気温が低くなっても体温はそれほど下がりません。それでも代謝率が低下する機能が備わっているのです。代謝率とは、個体が食物からたエネルギーをどれくらい、どのように使うのかということです。冬が来るまでにたっぷりと体に蓄えた脂肪を冬眠の間にエネルギー源として使いますが、代謝率が低いので、排泄などのために目を覚ます必要がなく、一冬を乗り越えることができます。
妊娠しているメスの場合には、冬眠期間中に子どもを出産し、授乳をしながら春を迎えます。
最近では冬、冬眠しているはずのクマに出くわし、襲われたというニュースを聞きます。冬眠するはずのクマが冬眠しないのは、「しない」のではなく、「できない」からです。これは秋にたくさん食べておくはずのドングリなどが自然環境の変化や人間が原因で不作となり、十分に脂肪をためておくことができなかったためです。山や野の自然を守ることがどんなに大切か、クマの冬眠を通してもわかりますよね。
秋、食料を求めて(アメリカクロクマ)
冬眠をしないクマたち
1年中、気候が温暖な地域に棲むマレーグマやメガネグマなどは、食料が豊富なために冬眠しません。
また、動物園で飼育されているクマもエサの心配がないため、冬眠しないのです。
一方、ものすごい寒さの北極圏で暮らすホッキョクグマはどうでしょうか。北極圏では冬こそアザラシなど、ホッキョクグマの食料となる動物が集まる時期。そのため、ホッキョクグマは冬には冬眠しないのです。積極的に狩りをしながら体に栄養をたくわえます。( この時期、メスは穴を掘って子どもを産みます。生まれたばかりの子熊は穴の中で母親と春まで過ごします。)ところが夏になると、アザラシなどの動物はいなくなるため、他のクマが冬眠の時に代謝を下げるのと同じような状態でホッキョクグマは生活をしていることが最近わかってきました。
このように、同じクマ科の動物であっても、棲息する環境によって冬眠をするかしないかが決まるのです。
ホッキョクグマはどうして南極にいないの?
ホッキョクグマは、地上で最大の肉食動物。北アメリカ大陸やユーラシア大陸の北部、北極海沿岸に棲息しています。
よくホッキョクグマとペンギンが一緒に流氷に乗っているイラストなどを街中で見かけますよね。ところが、ホッキョクグマは北極圏、ペンギンは南極大陸にいて、ホッキョクグマとペンギンは自然界では出会うことはないのです。
南極にホッキョクグマがいない理由
ホッキョクグマが南極にいないのは、大昔、氷河期が訪れる時までに南極にクマ類が到達していなかったからです。
「クマ科の動物はいつから地球にいるの?」でふれている通り、クマ科の動物が現れたのは、今から約2,000万年前の中央ヨーロッパ。それからだんだんと棲息地域を広げていったのですが、今は南北に分かれているアメリカ大陸をメガネグマが渡って南半球まで到達した時には、もう南極との間には海が広がっていて、クマ類は南極大陸に渡ることは出来なかったのです。
長い時間をかけて北極の環境に適応
残された遺伝子の研究から、ホッキョクグマはヒグマから約15万年前に分岐したと考えられていましたが、この数年、分岐はもっと昔、今から約60万年前の大氷河時代にまでさかのぼるという説が有力になってきました。最初に想像していたよりもかなり前に分かれたということは、それだけ長い時間をかけてホッキョクグマは北極圏のきびしい自然環境に適応してきたということ。そうなると、地球の中でも特に急速に温暖化と環境汚染の影響がでているこの地域で、急激な変化にホッキョクグマはついていくことができないということになります。
このままだと北極圏の環境はひどく損なわれてしまいます。すると、ホッキョクグマが生活と狩りの場としている海氷がなくなり、2100年までにはホッキョクグマは絶滅をすると言われています。真剣に地球が抱えるこれらの問題に取り組む時が来ているのです。
また、ホッキョクグマの進化については、今も世界中で研究が進められています。
ホッキョクグマの子ども(生後28ヶ月まで母グマといっしょ)
ホッキョクグマの毛は白でない⁉︎
ホッキョクグマは真っ白というイメージがありますが、実際の毛の色は透明。ほとんどの哺乳動物の体毛はメラニン色素の働きで光を通しません。ところが、ホッキョクグマの場合、体毛は空洞となっているために光を通し、光が反射することで白く見えているだけなのです。
実際、夏になると、あたり一面真っ白だった世界に緑や茶などの色が加わるため、毛色は黄色っぽく見えることがあります。また、動物園で飼育されているホッキョクグマでは、夏、緑のコケの胞子が空洞に入り込み、緑色のクマに見えることがあります。
もともとホッキョクグマの白い色は、あたり一面が氷でおおわれた北極圏では保護色で、アザラシなどの狩りをする時など、アザラシに見つかることなく、仕留めることができるのです。
体毛の下にある地肌は黒く、貴重な太陽の光で得た熱を逃がさないようになっています。空洞になった体毛ととても厚い脂肪の層が、ホッキョクグマを寒さから守っているのです。
こんな歩き方もするホッキョクグマ
クマの体の不思議
これまで「クマは環境への適応能力が高い」ということに触れてきましたが、その通り、棲息地域をどんどん広げるうえで、それぞれの環境にあった身体能力を身につけてきたのです。
クマはにおいや高い音に敏感
特に優れているのは嗅覚で、その能力は人間の2,000倍以上、イヌの20倍以上とも言われています。クマは食料を確実に得るためにこうしたすばらしい嗅覚を備えているのです。聴力は人間の3〜4倍のイヌと同じくらで、高い音に敏感です。
人間やサルなどの霊長類とリス類をのぞいたほとんどの哺乳動物は色をほとんど認識できないのですが、クマは少し色がわかるようです。だからこそ、どの木の実が熟しているかなどが分かるのかもしれません。しかし、視力は、ホッキョクグマ以外の多くのクマではあまり良くなく、近視だということがわかっています。
嗅覚のすぐれたクマ
すぐれた運動神経
大きな体をもつクマですが、運動神経もよく、大人のクマは時速50㎞の速さで走ることができます。人間よりも速く走ることができるのです。泳ぐのも得意で、特にホッキョクグマは走るのは時速40㎞ほどと他のクマよりはやや遅いものの、水の抵抗を受けない小さな頭とたっぷり蓄えた脂肪で長時間(最長3日間の記録があります)、平均150㎞の長い距離をノンストップで泳ぐことができます。
それ以外にもすごい能力がたくさん
木登りをするために鋭いツメをもつクマも多く、熱帯のジャングルに棲む南米唯一のクマ「メガネグマ」などは、甘い果物や着生植物(生きている植物の幹や枝、岩に根をはる植物)の芽を求めて15mもの高さの木を登ることができます。
木登りをするメガネグマ
この他にも、地面の下に巣を作るシロアリを掘り返して食べるために長いツメをもつナマケグマ、蜂蜜やハチの子をなめとるために長い舌をもつマレーグマなど、クマはそれぞれが棲む自然の中で時間をかけずにそれほどの手間なく食料を得ることができるよう、体の器官までもが進化してきた動物なのです。
長い舌をもつマレーグマ
そして、忘れてならないのは学習能力。一度、簡単に食料にありついてしまった場合など、その経験を忘れることはありません。だから、人間がむやみやたらに野生のクマにエサをあげてしまうと、人間がいる所に行けば何か食べ物が手に入るとクマは考え、人間が住む地域に出没し事故が起きてしまうのです。きちんとクマの能力や生態を人間が理解する必要 があるのです。