家にいるネコはもちろん、トラやライオン、ヒョウなどのネコ科動物はしなやかでクール、そしてちょっと可愛い。
家で飼っているネコ(イエネコ)は、分類学的には「食肉目(ネコ目)―ネコ亜目―ネコ上科―ネコ科―ネコ族―ネコ属―イエネコ」となります。食肉目はネコ目ともいわれ、ネコ亜目の他に「イヌ亜目」があり、この「イヌ亜目」の中に「イヌ下目」と「クマ下目」があるのです。
ここでは、ネコ科の動物を取り上げます。ネコ科には大きいものはトラやライオン、そして小さいものは野生種ではマレーヤマネコやクロアシネコがあり、イエネコの祖先である野生種のヨーロッパヤマネコの亜種リビアヤマネコを入れると合計38種が入ります。
さあ、ネコ科の動物をくわしく調べてみましょう!
いつからネコ科の動物は地球にいるの?
食肉類というのは、肉を噛み切るため、奥の臼歯の縁が鋭いハサミのような形となった「裂肉歯」を備えていることが条件ということに触れておきます。食肉類のの上顎(うわあご)では一番奥の前臼歯が、下顎(したあご) では一番前の臼歯が裂肉歯になっています。イヌやネコが肉をかみ切る様子を観察すると、やや顔を傾けて、上の顎の一番奥と下の顎の一番前の臼歯にある「裂肉歯」に食べ物が当たるように調整していることに気がつくと思います。進化の歴史を考えるとき、「肉歯類」と「食肉類」という言葉が出てきます。どちらも肉食だけれども、ヒアエノドンやオキシエナなどの肉歯類が栄えていた年代の方が古く、大型で、「裂肉歯」の位置が食肉類と違い、もっと奥にありました。この微妙な位置の違いが、後に肉歯類の絶滅という 現象を引き起こしたのです。
ネコやイヌ、そしてアシカなど、現在の食肉目に属する動物の祖先は、北アメリカやヨーロッパに棲息していたミアキス(Miacis/「動物の母」という意味)であるとされています。化石によれば、ミアキスは体長が約20~30㎝程度のイタチに似た小形の肉食動物で、恐竜が絶滅をした後、約6,500〜4,800万年前に棲息していました。地上はミアキスよりも大きな肉食動物「肉歯類」が繁栄をしていました。そのため、ミアキスは樹上にて鳥類や爬虫類、昆虫類や齧歯類の祖先とも言われるパラミスなどを食べていたと考えられています。このミアキスは、現在のネコ科の動物のように引っ込めることのできるかぎ爪、そして犬に似た骨盤をもっていたようです。
やがて、個体数の増加などにより樹上でも生存競争が激しくなり、森を離れて平原に出たミアキスがイヌの祖先、森に残ったミアキスがやがてネコの祖先に進化していったと考えられています。
今から約2,500万年前には、ヨーロッパからアジアにプロアイルルス(Ploailurus)という現在のジャコウネコに似た肉食獣が棲息し、1,000万年前から1,500万年前のユーラシア大陸には、ヒョウに似たプセウダエルルス(Pseudaelurus)という俊敏な動きをする動物が棲息していたことがわかっています。このプロアイルルスがネコ科動物の祖先である可能性が高く、長い牙が特徴の絶滅種スミロドン(Smilodon/サーベルタイガー)はプロアイルルスから進化を繰り返して誕生したのです。プロアイルルスからは牙の短いプセウダエルルス(Pseudaelurus)が分岐し、多種多様な進化を遂げ、オーストラリアと南極大陸をのぞく地域に広がっていったのが現生のネコ類だと考えられています。
サーベルタイガー(イメージ)
このように、ネコ科動物の祖先は人間が誕生する1,000万年以上も前から地球にいたことになります。小さなミアキスから長い長い時をかけて巨大化し、その土地に適応した体に進化を遂げ、現在の40種のネコ科動物に至 ったのです。
生態系からネコ科動物のことを考えてみよう
ネコ科の動物はすべてが捕食者(プレデター)。つまり、ハンターなのです。素早い動きで逃げまどう小動物を捕まえる姿を見て、残酷なイメージを抱く人もいるかと思います。しかし、生態系のでこれらのネコ科動物が果たす役割には、動物の数のバランスを保つという重要な側面があります。命のあるものを捕食(食べる)と被食(食べられる)の関係で位置づけていくと鎖のようにつながることから、この関係を食物連鎖と呼びます。ネコ科の動物はそれぞれの生息地域で陸上生態系の食物連鎖の頂点に立っています。頂点に立っているということは、ネコ科の動物を捕食する動物はいないということです。
生態系の中でそのような位置づけにあるネコ科の動物ですが、実際はイエネコを除き、多くの野生種が自然環境の変化や毛皮などを目的とした乱獲のために数を減らし、10数種以上のネコ科動物が絶滅危惧種に指定され、保護区の中で守られながら棲息している状況にあるのです。
また、ネコ科動物は夜行性が多く、また森の奥で単独で行動していることから、頭数の把握は難しく、本当にどれくらいの数しか棲息していないのか不明です。また、それらのネコ科動物が棲息している国々は経済的に困窮していることも多く、今後、どのように保護をしていくのかが大きな課題となっているのです。
ケニアのマサイマラ国立保護
世界のネコ科動物を調べてみよう
他の多くの野生生物と同様、ネコ科の動物も絶滅の危機に瀕した種類も多く、実際には絶滅してしまった種類もいるほどです。
では現在、世界に棲息が確認されているネコ科の40種類をみてみましょう。
【ネコ科の動物】
[ ]内の表示は、棲息地/成獣の平均体重(kg)
ネコ亜科(Felinae)
チーター属(Acinonyx)
○チーター(A. jubatus)[アフリカ、イラン北部/21~72㎏]
カラカル属(Caracal)
○アフリカゴールデンキャット(C. aurata)[セネガルからザイール、ケニア/11㎏]
○カラカル(C. caracal)[セネガルからザイール、ケニア/12㎏]
カラカル
アジアゴールデンキャット属(Catopuma)
○ボルネオヤマネコ(C. badia)[インドネシア、ボルネオ島/3~4㎏]
○アジアゴールデンキャット(C. temminckii)[ネパール、中国南部からスマトラ/7.7㎏]
ネコ属(Felis)
○ハイイロネコ(F. bieti)[中国西部/5.5㎏]
○イエネコ(F. catus)[世界中/3.6~4.5㎏]
○ジャングルキャット(F. chaus)[エジプトからインドシナ半島、スリランカ]
○スナネコ(F. margarita)[アフリカ北部、西アジア、中央アジア/2.8㎏]
○クロアシネコ(F. nigripes)[南部アフリカ/1.9㎏]
○ヨーロッパヤマネコ(F. silvestris)[ヨーロッパからシベリア中部、トルキスタン/3.5~6.8㎏]
スナネコ
ジャガランディ属(Herpailurus)
○ジャガランディ(H. yagouaroundi)[アリゾナからアルゼンチン北部/6.9㎏]
ジャガランディ
オセロット属(Leopardus)
○パンタナルネコ(L. braccatus)[南アメリカ/3㎏]
○コロコロ(L. colocolo)[南アメリカ/3.5~6.6㎏]
○ジョフロワネコ(L. geoffroyi)[南アメリカ/4㎏]
○コドコド(L. guigna)[アルゼンチン南西部、チリ南部/2.2㎏]
○アンデスネコ(L. jacobitus)[南米アンデス高地/8.1㎏]
○パンパスネコ(L. pajeros)[南米アンデス山地/3.9㎏]
○オセロット(L. pardalis)[中央アメリカからアルゼンチン北部/8~20㎏]
○ジャガーネコ(L. tigrinus)[北アメリカ大陸南部、南アメリカ大陸/2.2㎏]
○マーゲイ(L. wiedii)[メキシコ、中央アメリカ、南アメリカ/3.6㎏]
ジョフロワネコ
サーバル属(Leptailurus)
○サーバル(L. serval)[アフリカ/12㎏]
サーバル
オオヤマネコ属(Lynx)
○カナダオオヤマネコ(L. canadensis)[アラスカ、カナダ、アメリカ北部/8~11㎏]
○オオヤマネコ(L. lynx)[西ヨーロッパからシベリア/18~30㎏]
○スペインオオヤマネコ(L. pardinus)[スペイン南西部/13㎏]
○ボブキャット(L. rufus)[カナダ南部からメキシコ南部/8.6㎏]
カナダオオヤマネコ
マヌルネコ属(Otocolobus)
○マヌルネコ(O. manul)[シベリア南部、アジア中央部からイラン、アフガニスタン/3㎏
マヌルネコ
マーブルキャット属(Pardofelis)
○マーブルキャット(P. marmorata)[インド北東部、東南アジア/2~5㎏]
ベンガルヤマネコ属(Prionailurus)
○ベンガルヤマネコ(P. bengalensis)[朝鮮半島から中国・東南アジア・インド/3~5㎏]
○イリオモテヤマネコ(P. iriomotensis)[日本・西表島/3.5~4.5kg]
○マライヤマネコ(P. planiceps)[マレーシア、インドネシア、ブルネイ、タイ南部/3.5㎏]
○サビイロネコ(P. rubiginosus)[インド南部、スリランカ/1.4㎏]
○スナドリネコ(P. viverrinus)[ジャワ、スマトラから中国南部、インド/8.8㎏]
スナドリネコ
ピューマ属(Puma)
○ピューマ(P. concolor)[カナダ南部からパタゴニア/53~100㎏]
ヒョウ亜科(Pantherinae)
ウンピョウ属(Neofelis)
○ウンピョウ(N. nebulosa)[中国南部からスマトラ/12~23㎏]
ウンピョウ
ヒョウ属(Panthera)
○ライオン(P. leo )[南部のアフリカ、一部インド/190㎏]
○ジャガー(P. onca)[メキシコ北部からアルゼンチン北部/56~96㎏)
○ヒョウ(P. pardus)[サハラ以南のアフリカ、南アジア、北アフリカ、アラビア、極東/31㎏]
○トラ(P. tigris)[インド、ネパール、中国南部、アムール、インドネシア/90~310㎏]
ユキヒョウ属(Panthera)
○ユキヒョウ(P. uncia)[ヒマラヤから中央アジア/32㎏]
ユキヒョウ
日本にはどんなネコ科動物がいるの?
日本に棲息する野生のネコ科動物はツシマヤマネコとイリオモテヤマネコの2種のみ。名前の通り、ツシマヤマネコは長崎県の対馬、イリオモテヤマネコは沖縄県の西表島だけに棲息しています。
対馬のツシマヤマネコは、ロシア極東部から中国、そしてインド、東南アジアの一部まで広く棲息するベンガルヤマネコ(あるいはアムールヤマネコ)の亜種とされ、今から10万年前から20万年前に陸続きであった大陸から朝鮮半島経由で移動してきて、現在まで生き延びてきたと考えられています。
ツシマヤマネコ
西表島のイリオモテヤマネコはおそらく300万年以上前にアジア大陸と陸続きだったころ日本に入ったと考えられています。八重山地方特有のサキシマハブ(イリオモテヤマネコの天敵)などの分布から考えると、台湾からではなく琉球列島の中央部あたりを通ってきたようです。
イリオモテヤマネコ
本州・四国・九州にヤマネコが棲息しない理由は不明ですが、九州とは海で隔てられていたことや、他の地域でもヤマネコ類の化石は出るので、環境の変化などがあったのが原因かもしれません。
ツシマヤマネコとイリオモテヤマネコは、イエネコを一回り大きくしたようなサイズで、耳が小さく、先端が丸くなっているのが特徴です。尻尾が太くて長く、胴長短足。はっきりしないもののトラのような模様の体毛に覆われています。
「平原の王」ライオンと「密林の王」トラ
アフリカのサバンナに威風堂々とした姿でたたずむ雄ライオンの姿はまさに「百獣の王」の風格。実は体の大きさで言えば、ネコ科で一番大きいのがトラ、その次がライオンです。(ライオンは140~250cm、尾長70~105cm、肩高105〜125cm、体重120~250kgです。一方、トラは体長140~280cm、尾長60~110cm、肩高80~110cm、体重65~306kgもあります)。
【ライオン】
他のネコ科動物のほとんどが集団を作らず、単独で行動をするのと異なり、ライオンは群れで生活をしています。集団のボスであり、用心棒的な存在でもある雄ライオンのあの立派なたてがみは、テストステロンというホルモンが影響しています。他の雄ライオンとの戦いに勝つことでホルモンが体内で生成され、たてがみを濃くしていきます。ふさふさと豊かで深みのある色のたてがみは強い雄ライオンであることのシンボルであり、雌ライオンも強い子孫を残すために、たてがみの立派な雄ライオンを選ぶのです。また、このたてがみには、急所である首を相手のパンチと牙から守るという働きもあります。
メスとオスの外見だけでなく、役割が大きく異なるのも、他のネコ科動物にはない特徴です。一見、家族で暮らしているイメージのあるライオンですが、実際にはメスが集団の中心であり、オスはその周辺で群れに入ったり、離れて他の雄と戦ったり、他の雄と別の集団を作ったりしています。雄の子どもは最初、群れで母親や兄弟と暮らしていますが、やがて、父親にライバルとして群れを追い出され、厳しい生活を送りながら、大人へと成長していくのです。
ライオン
一方、アジアの森林地帯に棲息するトラは、その美しい縞模様と立派な体つきが魅力のネコ科最大の動物です。かつては熱帯雨林からマングローブの湿地、そして極寒のシベリアのカバノキ林、ヒマラヤ山麓の森にまで、9種類 (亜種)のトラが数多く棲息していました。その数は10万頭 にのぼったのではないかと考えられています。しかし、他の野生動物と同じように極端に数を減らし、バリトラ(インドネシアのバリ島に棲息していたトラ)、カスピトラ(別名ペルシャトラ/カスピ海沿岸地域に棲息していたトラ)、ジャワトラ(インドネシアのジャワ島に棲息していたトラ)はすでに絶滅し、アモイトラ(中国南部に棲息していたトラ)も野生ではすでに絶滅したと言われています。現在は、ベンガルトラ(インド・ネパール・ブータン・バングラデシュに棲息するトラ)、アムールトラ(ロシア東部・中国東北部に棲息するトラ)、インドシナトラ(タイ・ミャンマー・ラオス・ベトナム・中国南西部に棲息するトラ)、スマトラトラ(インドネシアのスマトラ島に棲息するトラ)、マレートラ(マレーシアに棲息するトラ)が3,000頭前後、棲息するのみとなっています。
トラはネコ科動物の中では珍しく水が好きで、泳ぎが得意。大型の獲物が獲れないときには、川に入り、魚やカエル、カメ、そしてワニなども捕まえ、食べることがあります。トラは木のかげや草木の茂みにかくれ、一気にその強くて大きい前足と爪、それと牙を使い、獲物を仕留めます。トラが獲物とする草食動物は色を認識することができない(色盲)ため、縦に伸びる草木や樹木の中でトラのあの美しい体毛が目立つことはありません。縦縞模様にもそうした理由があるのです。それでは、あの毛の下の皮膚はどうなっているのでしょうか。答えは、やはり縞模様です。
アムールトラ
動物園では、ライオンとトラを同時に見ることができますが、自然界では、棲息する地域や環境が違うため、ライオンとトラが出会うことはありません。インドに棲息するインドライオンとベンガルトラであっても、それぞれの棲息地はかなり離れているため、この2種が出会うことはないのです。
一番小さいネコ科動物は?
それでは、今度は世界最小のネコ科動物をみてみましょう。超小型なのは、サビイロネコとクロアシネコ。ライオンの200分の1程度の重さしかありません。大人になっても、生後3か月ほどのイエネコの子猫と同じくらいのサイズ。生まれたてはネズミくらいの大きさです。
サビイロネコは、体長35~48cm、尾長15~25cm、体重1.1~1.6kgで、インド南部の熱帯林や草原、スリランカの熱帯林の樹上に棲み、夜間、人間の6倍もある視力で、小さなトカゲや昆虫、小動物を捕まえて生活をしています。サビイロ(錆色)とは、鉄がさびたような赤茶色のこと。この錆色の斑点が背中と脇腹に並んでいます。とても可愛らしい顔で、陽気な性格。しかし、絶滅危惧種に指定されており、日本でペットとして飼うことはできないだけでなく、世界中の動物園でなんとか頭数を増やそうと、懸命な努力が続けられているのです。
サビイロネコ
サビイロネコと並んで最小のネコ科動物と言われるクロアシネコは、アフリカ南部に棲息しています。体長32~50cm、尾長15~20cm、体重は1.5~2.8kg。その名の通り、黒い足裏が特徴です。南アフリカのカラハリ砂漠の半砂漠地帯やサバンナ地帯(熱帯草原地帯)に棲んでいます。とても気温が高い地域のため、岩陰や低木の陰、シロアリの塚や他の動物が残した穴に身を隠しています。体重の6分の1にもあたる量を1日で食べるほどで、ネズミなどの小鳥などの小動物やもちろん、自分よりも大きなノウサギや鳥も襲うことがあります。性格は獰猛で、サビイロネコと異なり、決して人に懐くことはないと言われています。クロアシネコもまた、絶滅危惧種です。
クロアシネコ