キョクアジサシ
「渡り」とは、いきものが季節のような規則的な周期で長距離を飛ぶことで移動して生息地を変える行動のこと。日本語では飛翔して移動することを「渡り」、泳いで移動することを「洄游」、歩いて行うのを「移動」と言い分けているんだ。英語ではいずれも「migration」と言うよ。
「渡り鳥」という言葉あるほど鳥類の「渡り」は有名ですが、昆虫(チョウ)や哺乳類(コウモリ)にも「渡り」をする種類があるんだ。鳥では、南方から繁殖のために夏に日本に飛来するツバメ、オオルリ、クロツグミなどの夏鳥、北方から越冬のために日本に飛来するツグミ、マガモ、オオハクチョウなどの冬鳥が挙げられる。渡り鳥の中には、キョクアジサシのように北極と南極の間を合計8万kmという長距離を飛ぶ鳥もいるんだ。「渡り」をする目的は、主に三つ。ひとつは出来るだけ豊富な食べ物があり、できるだけ同じ食べ物を狙うライバルがいないところを求めているということ。2つ目は、繁殖のため。できるだけ危険が少なく、子どもの食べ物が豊富で、安心して出産や子育てができる場所を求めているということ。そして3つ目は、厳しい気候を避けるために「渡り」をするというもの。
キョクアジサシの群れ
それでは、それぞれの生きものはどうやって渡りの時期がきたとわかるのかな?生きもの体内に組み込まれた遺伝子情報と体内時計、そして太陽の位置などから教えられなくても生きものは「渡り」の時期が来たことを察し、間違えることなく目的地に移動するということが数々の研究から分かっているんだ。また、鳥などは天体や地形上の特徴などの情報、サケなどの魚では自分が生まれた川のにおいの記憶を移動に利用しているとも言われているんだ。こうした「渡り」をする生きものの多くは、どんなに途中に過酷な運命が待ち受けていようとも、どんなに魅力的な誘惑があろうとも休むことなく移動を続けるんだ。(ただし、中には中継地点に一定の期間、休息をとる生きものもいるよ。)長い進化の歴史の中で、生命をつなぐ手段としてより良い「渡り」をするという本能が受け継がれているというわけなんだ。